ふぇいくりある
さくさくと草を踏みしめる音がする。訓練を受けていたクラウドは足音を立てないように静かに歩くのがすっかり身についてしまっていて、大地を足で感じるように一歩一歩進むバッツを見ていると少し落ち着かない気分になった。
羨ましい、わけではないのだろうけど、もしかしたらそれに近いのかもしれない。
「さっきの楽しかったなあ。こんな時に不謹慎かもしれないけど」
あーゆーの、好きだからさ。
はにかむようなその声を聞いて思ったのは、バッツらしい、の一言に尽きる。
大勢でわいわい騒ぐのが好きに違いない、これまでは分散してクリスタルを探していたのでまとまって食卓(卓ではなかったが)を囲む機会などなく、つまらないと感じていたのだろう。
もちろん皆の気持ちを上げようとの意図だったというのは分かるが、やっと巡ってきたチャンスを逃したくはなかったはずだ。終始笑ってばかりいた姿は、なかなか忘れられそうにない。
「そーいや、さ」
くるくる、よく回る口だと思う。話があっちにいったりこっちにいったり、いつも一緒にいるジタンはよくついていっているなと感心したくなった。そんなことに感心したのは一瞬だけだったけれど。
「前から思ってたんだけど、重くないか」
それ、と言ってクラウド自身を指差される。人を指差して重いとは失礼な!なんて思ったりはもちろんしない。
ティーダからも同じようなことを尋ねられたことがあった気がする。その時己は何と返しただろうか。
指先が指し示しているのはクラウドの背にある大剣、バスターソードだ。
右の掌を前に突き出したかと思うと手元がぱっと青白く光り、空気の流れが一瞬変わった。風が音もなく駆け抜けて二人の身体をくすぐる。
やがてその光は拡大を止め、ゆるゆると消えていき、手には大剣が残った。恐らく大きさや重さも全くクラウドのバスターソードと同じなのであろう。
バッツの得意技「モノマネ」だ。
2010.05.02発行