I will go far away without saying good-bye.
(溢れたのは涙じゃない)
本当は訊きたかった。これで間違ってないよな、って。訊けるはずがないのに。
あの時の言葉が甦る。
「残りの人生全部使って世界中幸せにしろ」
出来るはずがないと言われた時は思ったけれど。
出来るのかもしれない、希望が見えたが、一人で可能なことではなく大勢の命を道連れにしなければならない行為だった。
自らの価値を見い出す為、またある意味償いの為、また多くを殺す。
それでもこうするしかないと、考えて、考えて、考えたんだ。
だから。
涙を流す資格なんて。
(言えなかった言葉、言いたかった言葉)
どうしたことだろう、声が上手に出せなくなっている。喉が痛いわけでもないのに、声が掠れ、思うように言葉を発せられない。
「なんもないなら、俺、行くよ」
ふわりと裾をひらつかせて背を向けてしまったルークに、待て、と叫ぶことすら叶わない。ならばと足を動かして追おうとするが、普通に歩いているはずのルークに追い付くことが出来ず、むしろどんどん距離を広げられてしまっている。
ルークが行ってしまう。
大事な言葉を伝えてないのに。
待ってくれ!
出ない声で必死に叫んだところで一瞬振り返ったルークの顔は、遠すぎてどんな表情を浮かべているのか分からない。
今ならばともう一度繰り返そうと息を吸おうとしたのに、
「じゃあな」
聞こえて世界はぐにゃりと消えた。
2010.02.21発行