present from you
(歩みを止めども世界は回る/浅葱香羅担当部分)
「あなた…もうちょっと世界のこと学んだ方がいいんじゃないかしら」
「はあ?」
天気は快晴でなんとも旅日和といったところだが、今している「旅」はピクニック気分で暢気に出来るものなどではなく、カテゴリー的には敵国にいることになるため少しでも早く先に進まないといけないというのに、ティアとルークの二人が向かっている先は聖獣チーグルの住まう森である。
更に方角は本来進まなければならない方向と真逆であって、しなければならないことでもない、はっきり言って寄り道、いや無駄足だ。
しかしルークはチーグルをとっ捕まえる!と意気込んでやまないし、彼を無事バチカルまで送り届けなければならないため、たとえ本音は「勝手にしなさい」というものであったとしてもルークがどうしても行くと言うのなら着いていかねばならない。
私怨に巻き込んでしまった負い目もある。
町に着けた!と昨日はあんなにはしゃいでいたのに、泥棒と間違えられたのが相当悔しかったのだろう、くるくるとよく変わる表情が昨日から怒ったものになっている時間が長い。
寝ている時や食事の時は子供っぽくてかわいいものではあったが。
そんな風に思考を巡らせていると、ルークが再び足を止めて何かを見つめている。
だだっ広い草原がめずらしくてたまらないのか、あっちにふらふらこっちにふらふらしてはティアに注意される、というやり取りを先ほどから何度も繰り返していた。
このままではただでさえ回り道をしているのにもっと時間をかけることになるし、魔物に遭遇した時のことを考えると危険でもある。
何か手を打たねば、と思い、とりあえず会話でもしていれば周囲に気が向くことも少なくなるだろうと話を振ったのが先の言葉だ。
「んだよ、いきなり」
「巻き込んでしまったのは申し訳ないと思っているけれど、折角こうして外に出れたのだし。あなたお屋敷でずっと過ごしていたのでしょう?だったらこの機会にもっと世界のことを肌で感じるべきじゃないかしら」
しまった、話題の振り方を間違えたかもしれない。
これでは余計にルークがふらふらしてしまうかもしれない。
「な、何か聞きたいことはない?知らないこととか…わたしに答えられるものなら何でもいいわよ」
「知らないことって言ったって、知らないことは知らないことなんだから聞けるわけねーだろうが」
慌てて話題をうまく操ろうとするも、当り前のことを返されてしまう。
それはそうだ、自分が何を知らないかも分からないのにそう容易く疑問が出てくるはずもない。
変なやつだな、と横から言われる。
それ以上言わないでほしい。
自分でも今のは相当おかしかったと思っているのだから。
「まあいいや。知らないことだったか?ていうか知らないことだらけだっつーの」
知らないことー知らないことー何があっかなー。
文句を言いながらもそうして探してくれていることに感謝する。
しかしそう言いながらも目線はきょろきょろしっぱなしで、折角ティアとルークが横並びでを歩いていたのにこのままではまた追い抜かしてしまいそうだ。
僅かに苛立ちを感じ、別にないのならそれで構わないけれど、と言葉尻がきつくなってしまう。
やってしまったと思うけれど口にしてしまった言葉が取り消せるわけもない。
案の定すぐさま「お前が聞いてきたんだろ!」と怒鳴り声を発し、ルークは立ち止まってこちらを振り返った。
「…悪かったわ、ごめんなさい。早く先に進みましょう」
このままではいつまで経ってもチーグルの森に辿り着けやしない。
謝罪し歩き出すと、暫し立ち止まっていたルークがぶつぶつ文句を言いながらも後ろから付いてくる気配がした。
もうこのままでも構いやしない。
ルークが地図を読めない以上目的地が分かっているのはティアだけだし、何かあればすぐに気がつくだろう。それでいい。
結局そのままルークはティアの少し後ろの位置を行ったり来たりしながら周囲を見回すことも止めずにチーグルの森まで歩いていくこととなった。
そしてその位置取りは、森で導師イオンと合流した後も続いていた。
やや後ろを、周囲を見回しながら。
2008.10.13発行