26 幸せ日和(ギアスR2/スザク→ジノ×モニカ)
彼女はとても優しくて気が利いて、守りたくなるような柔らかさがあって、でも芯があって強さも持っている、そんな女性だ。
どこまでもお似合いで絵になる二人はまるで世界中から祝福されているかのようで、光の満ちている場所に自分は不釣合いだけれど望まれていることが分かるから少しでも影にいようとするのに、そんなスザクに彼女はどうして気付いてしまうのだろう。
彼女のために作られた純白のドレスをふわりと揺らしながら小走りに近付いてくる姿がまぶしくて、目を逸らしたくなる。
血に塗れたこの手で触れていいのか一瞬迷ったけれど、意を決して少し低い位置にある頭を出来る精一杯で優しく撫でて「結婚おめでとう、幸せになってね、モニカ」告げれば彼女は頬をピンクに染めて、それはそれは可愛らしい笑顔をスザクに見せた。
2008.7.18
27 誰よりも、大切。
28 いつもの待ち合わせ場所
またここに来てしまった。
もうやめればいいのに、きっとお互いに同じことを思ってる。それなのにどちらもやめないのだから、おかしなものだ。どうしてと問われたって答えなんて明確に出来ない関係。いつから始まったのかも曖昧で、いつまで続くのかなんて見えてこなくて。それでも。
いつもの店。ドアをくぐって右奥のカウンター席。くずしたスーツに緩く縛った長い赤髪。
ずいぶん見慣れてしまった光景だった。その横に何も言わずに腰掛ける自分の姿も。溜息を一つ、すると横目で軽く睨まれる。
「来て早々それはないんじゃねえの」
「笑って挨拶でもすればよかったのか?」
それは気持ち悪い、とグラスを傾ける姿を見、カウンターの向こうにいるバーテンダーに「同じものを」と声をかける。
「結構きついやつだぞ、と。いいのか?」
「別に」
それに、今日はどうしても
「…酔いたい気分なんだ」
目の前に置かれたグラスを戸惑いなくあおると、横から溜息がもれる。呆れたやつだぞ、と、そんな呟きが聞こえたが無視した。だったらこんなところ来なければいいだけの話だ。どちらも。
二杯目を注文しながら何をやっているんだろうとアルコールが回ってきた頭でぼんやり思う。こんな風に「いつも」が付いてもおかしくない関係になるなんて。長く続く関係なわけがなかったのに、それでもこうして二人並んで酒を飲んでいる。
この後続けてするだろう「行為」も「いつも」のものになっているようで、何がしたいんだろうと本気で考える。考えても答えが出た試しはなかった。
「いつも」の様に触れ合う手の温もりが起こす感情に名前なんてあるはずがない。
2011.05.10
29 帰り道でのキスの理由(SOS/キョン古)
これで会うのも最後なんだなと思ったら、一度だけ、一度だけくらいなら触れてもいいんじゃないかなんて。全くどうかしていたとしか思えないことを、それでも当時は本気で思ったりしたのだった。
高校三年の卒業式を終え、僕らは泣いたり笑ったり、そしてやっぱり泣いたりして別れを惜しみ、再会を約束した。けれど僕は彼や彼女と会ったり話したりといったことはこれから先許されなくなる。接触を禁じられているのだ。もう心配ごとなどないというのに、『機関』のお偉い方にはそれなりの考えがあるんだとか。僕には理解出来ないけれど、そこに身を置いている以上従わなければいけない。
部室でめいっぱい騒いだ僕らは並んで坂道を下り、別れ道では足は重いがまた会えるのだから大丈夫と眼を赤くしながらも笑顔で手を振って背を向けた。ぴんと張られた背中と揺れる黄色いリボンへ本当は大声で謝りたかったけれど、それがどうしても出来ない僕だから、一度だけ、と「涼宮さん!」大きな声で呼べば当たり前に振り返ってくれる。何も言えない代わりに大げさな程手を振ると、涼宮さんはぽかんとした表情を浮かべた後「またね!古泉くん!」僕の名前を呼ぶながら笑顔で同じくらい大きく手を振ってくれた。彼女に本当のことを言えないのなんて今まで何度もあったことなのに、ああつらいな、と今更なことを思って少し視界が滲む。
そんなこんな一連の流れを横で見ていた彼がくっと笑った。彼女の姿が見えなくなってからのことで、多分それまで堪えていたのだろう。少し恥ずかしくなって「…なんですか」と言えば「いや別に」笑い混じりの声が返ってくる。もしかしたら気付かれたのかと冷やりとしたが、そうでもないらしい様子にほっとした。二人きりになってしまった僕らの間に、それまではあまりなかった穏やかな空気が流れている。彼と会うのも、会えるのも、これで最後だ。そう思ったら少しくらい触れてもいいんじゃないかって、それくらいは許されるんじゃないかって。馬鹿げていると思うけれど、それでも。そんなことを考えているうちに別れ道が近付いてきて、ちょっとだけ、握手で始まった僕らが握手で終える、それくらいなら。ぐるぐる思っていたところに声がかかった。名前を呼ばれて振り返ろうとしたところで腕を引かれる。え、と驚いていると、唇に優しく何かが触れた。頭が真っ白になっている僕から離れた彼は背を向けて「…じゃあな!」と去っていってしまう。呼びとめることも出来ないくらい、あっという間のことで、その分破壊力は大きかった。
それが、彼との最後だ。
あれからもう何年経っただろう。卒業式の次の日には新しく携帯電話を購入し、それまでのものは解約した。当然彼にも彼女にも新しい連絡先は教えていない。けれど、今でも高校生活で肌身離さず持ち歩いていたもうどことも繋がれないものを僕は現在でも持ち歩いている。電池が切れそうになったら充電し直したりして、おかしな話だけれど何度電源を切って、何度電源を入れ直したか分からない。この携帯電話が最後に誰かと繋がった証を、僕は何年経っても忘れられなかった。
あの卒業式の日、気が付いたら自分の部屋にいて、ああそうだ荷物をまとめないと、と機械的に手を動かしていたところで携帯が震えた。メールの着信だった。なんとなく予感はあったからそれには手を伸ばさずに作業を続け、しばらくしてからインターフォンを鳴らした森さんと共に携帯電話を解約しに行った。本来ならば重要情報がつまりにつまっているそれは回収されるに違いないと思っていたのだけれど、森さんは「それはあなたのものです。自由になさい」と見たことないような顔で言ってくれたので、とりあえずその場で処分はせずに受け取った。用意された新居に着いた時にはすっかり日付は変わっていてぐったりしたまま直接床に転がる。からっぽの部屋に少しの私物、今日からここで暮らしていくのだ。コートのポケットに入っていたものがごとりと音を立てて姿を現した。もうどことも繋がっていないガラクタ同然だけれど、だからこそ手を伸ばすことが出来た。震える指先でボタンを押せば新着メールのアイコンが見える。考えて考えて、ものすごい時間をかけて携帯電話を開いてメール画面まで操作すると、やはり彼からの短いメッセージが届いていた。
『さっきは悪かった。…21時に光陽園駅前公園で待ってる。』
すぐに閉じて投げてしまおうとして、出来なくて、ぎゅっと握りしめた。泣いていいわけがないけど、涙が止まらなかった。
何年経ってもまだあのメールを見ると指先が震える。あの時の彼の赤く染まった耳だとか、少し裏返った声だとかがどうしても忘れられない。今でもあのキスの理由を、僕は一方的に断ち切った繋がりに向かって問いかけている。
2011.04.01
30 赤い風船は何処までも飛ぶ
31 戻れない、戻らない
32 それぞれの視点
33 血溜まりに微笑む
34 名前を教えて(TOA/ルーク)
あなた誰?
(俺はルーク・フォン・ファブレだ!)
あなた誰?
(俺は…ルーク・フォン・ファブレ…)
あなた誰?
(俺は…ルーク・フォン・ファブレの)
あなた誰?
(俺は…)
あなた誰?
(おれは)
あなた誰?
あなたの名前は?
どうして教えてくれないの?
知りたいだけなのに、呼びたいだけなのに
ねえ あなた だあれ
(おれはうまれていきたからそれだけでいいんだ)
2008.5.14
35 きっと来年は、
36 期待はしないで
37 欲しいだけあげる(TOA/ガイルク)
欲しいだけあげるよ。なんだって。望むものなら。望んでくれるのなら。
口にしてくれれば、泣いてくれれば、頼ってくれれば。
そうしてくれたら、たぶん、本当に、なんでも出来る、そう思うのに。
一人で決めてしまったルークは何も口にせず、泣くことを拒み、頼ることを捨ててしまった。
そんなルークに何がしてやれるというのだろう。
ルークが何を望んでいるのかがもう分からないのに何をあげられる?
それとも訊けるのか?ガイの自己満足のために、ルークが拙くも必死に隠しているものを。
望むだけ、いや、望む以上のものだって、この手の内にないものなら世界中探してでも、全部、ぜんぶ、おまえに、すきなだけ。
2009.09.14
38 もっともっと必要として
39 ささいなこと
40 優しく塗りつぶした後に
41 こんにちは何度目かの世界
42 愛の延長線上
43 想いは常に最大値
44 君っていつもそう
45 あまりにも違いすぎる
46 背中合わせ
47 もう触れられない
48 それだけじゃ寂しすぎるから
49 僕の涙を拭って
50 また一緒に歩こう