ALC ビル 修復

あふれる色彩の中で

君と過ごした日々は、まぁ悪いもんじゃなかったよ。




靴を鳴らしながら歩く様はいつものもので、その普段さが心に引っかかる。
この天使の発する声、動くときの音なども自分以外には一切聞こえていなかったのだろうか。
分かりきっていたことだけれども改めて考えてみる。
この世界で彼の存在を知っている者は己だけなのだろう。
キラは天使でその背中に羽があるのに、地上に立ち視線を合わせ、同じ目線で過ごしていることが不思議だった。
それでも、嬉しかった。
そう、嬉しかったのだ。
何も分からず、キラの存在だけが確かなものだった。
もっとも身近にいた存在だった。
その存在がおよそ「天使」というかけ離れたものではなく、「人間」と同じ所作をしてくれていたこと。
それは自分に安心を与えてくれた。




「もう…会えないのか」



別れを惜しむ気持ちと、これからも会いたいという想いが合わさって口をついた言葉だった。
自分でも情けないような顔をしていだろう。
するとキラの歩みが止まった。



「当たり前でしょ。僕はこれからまた、違う世界で違う人の担当になるだろうから」



キラは前を向いたまま、アスランの方を向こうとはしない。
だからアスランからはキラの表情を伺うことは出来なかった。
ただ少し、ほんの少しだけその声色に寂しさのようなものが混じっているような気がする。
あくまで気のせいなのかもしれない。
それでも、彼が僅かでも自分との別れに対して寂寥のようなものを感じていてくれるのかと思うと、思わず涙腺が緩みそうになる。



「さあ、アスラン。もう君は行く時間だ。君には待っている人が大勢いる」
「キラ…。だが、」
「早く行けって言ってるだろ!」



言い放ちながらキラが振り返る。
苛立ちしか含まれていない言葉だが、その眼がやや潤んで見えるのは見間違いではない。



「君には、君の人生があるんだ。折角のやり直しのチャンス、そして試練を突破したんだ。しっかり歩み続けてよ」



二人の間に沈黙が訪れる。
おそらく時間にすれば大して時は流れていなかっただろうが、とてもとても長い時間に感じた。
(それは、きっと、互いに共通したことで)
目を伏せていたキラが顔を上げ、アスランの方へとゆっくり手を伸ばした。
瞬間眠気が襲ってくる。
回る視界の中でキラの哀しげな微笑が見えた。



「ばいばい…アスラン」



意識が途切れようとしたその時、やけにはっきりとその言葉は耳へと響き、心に染み渡っていった。







これから先
自分はキラにもう決して会うことはできないだろう
それでも
それでも
少し後ろを付いて来るように歩いていた天使の姿と
コツコツと鳴らされる靴の音を探している


多分、これからもずっと

ずっと









2007.03.16

愛する「カラフル」のパロ。大好きで大好きで、それをこんな風にしてしまって申し訳なさが…。思いっきりラストシーンのみです。
小林真→アスラン   プラプラ→キラ