ギルティパロ
「俺に復讐する手間が省けただろ?」
軽い調子の声が甦る。いつも本心がどこにあるのか分からないような男だった。馬鹿にされているのかと苛立ちを感じた回数など数え切れない程だ。
かつての殺意は少しずつ薄れはしたが、消えていない、そう思っていたし、実際そのはずだったのに。
携帯電話から聞こえる会話がいよいよ切迫したものになっていく。求めていた真実を強引に暴いた、暴かせた男ともう一人が声を荒げ言い争いをしているが、どうしても全てを聞き取ることは叶わなかった。スピーカー部分に耳を押し付けても言葉はするする漏れていく。声を、呼吸すら詰め、祈るようにどうにか会話を拾っていると、不意に男の声が途切れた。ひどく嫌な予感がする。より強く手にしたそれを握りしめ、耳に押し付けた。一瞬でも離してしまったら、なにかがこぼれ落ちてしまいそうで。
無音はどのくらいの間だったのだろうか。よくある表現だが、一瞬だったのかもしれないし、もう少し長かったのかもしれない。すると、不意に男のいつもの軽い調子の声が甦った。いつだって、変わらなかった、あの声が。
(つんけんしちゃって。かわいくねぇなあ)
(まーた男と寝たのか?実は好きでやってんじゃないの)
(キラちゃんよ〜)
(こんなこと止めてさ、アスラン君だっけ。幸せになればいいじゃない)
(オレニフクシュウスルテマガハブケタダロ?)
鈍い音がした。まるで…そう、まるで何かが高いところから思い切り叩きつけられたような、そんな音がした。同時だが直後だかに、恐らくこちらと繋がっている携帯電話が手から離れて落ちてしまったのだろうガシャンだとかゴンだとかといった衝撃音がスピーカーから届く。音割れしてしまったそれらはとても耳を押し付けて聞いていることなんて出来ず、とっさに顔を離してしまった。はっとする。離して、しまった。すぐに音が聞こえるべき箇所へと耳をあてたが、おかしいぐらい静かだった。位置が違うのかとずらしてみたり、痛くなるくらい押しあてても効果がない。指先が震える。何があっても声を出してはいけない、この約束の元彼らの会話を聞かしてもらっていたけれど、そうも言ってられないはずだ。だって、明らかにおかしいではないか。
「…ムウさん?」
初めは約束を意識して小さく呼びかけた。しかし、名前を繰り返し呼ぶ度、キラの声は大きくなっていった。震えも加わる。こちらまで静かになってしまったら「認めなければいけない」気がして何度も呼びかけ続ける。
何度も何度も。
おどけた声は黒く闇に染まったキラの心に確かに届いていた。彼とはまた違う形で、そっと光を当ててくれていたのだ。
だから、どうか。
一言でいいから。
もう一度。
2011.07.20
大好きなカンノミホが主演していたドラマをダブルパロ。放送当時から妄想してましたが、大分時間がかかってしまいました。
この二人の関係が大好きで、妄想が止まらない(笑)