きみがあいしたせかいにさよなら
本来曲がらない方に曲がってしまっている脚だとか地面を染めていく鮮血だとかあるべき場所にない腕だとかそういうものを目の当たりにして、ああもうだめだな、そんな風にしか思えない自分はどこまでも軍人でしかないのかもしれなく、涙の一つもでも流してやれればよかったのかもしれないが相手だってそんなものは望んでいないであろうことはそれこそ軍人である自分が痛いほど分かっているから、思うように動かない身体を引きずるようにしながら憐れな姿に助けるためではない手を伸ばした。
倒れた上半身をゆっくりと起こす手つきが自分でも驚くほど丁寧で、これが最後の優しさなのだろうかとジノは遠く思う。
口からは断続的に血が溢れ出し、彼が着用している白を基調としたパイロットスーツを次々に汚していく。同時にそれはジノのものをも染めていくけれどそんなものは今更すぎて気にならないし、こちらとて無傷ではないのだ、額から流れ落ちる血液が苦痛に歪む彼の顔に数滴垂れて紅い跡を残した。
少しでも楽な体制にしてやるつもりで動こうとした時、もうとっくに意識などないと思っていた彼の目がうっすらと開き、本来きれいな翠のそれは濁った色で彷徨うように周囲を窺う。
傷に大きく響かない程度に身体を揺らしながら、スザク、と聴覚がまともに働いているか分からないためやや強めに呼びかけると、焦点のあってないながらもジノの顔の辺りをスザクは見上げた。
こちらの名を確かめるように呼ぶ声はあまりにか細く、また損傷していることを訴えているかのように肺が変に空気の抜ける音を発するため、とてもじゃないがまともに聞き取れるようなものではなかったけれど、身体を丸めて口元へと顔を近付けることでなんとか拾い集めようとする。背中に避けるような痛みを感じたが、構いやしなかった。彼の最後の言葉を聴いてやることの方が大事だ。
たとえ途切れ途切れで意味など為していなくとも全部受け止める、それが今のスザクに対してしてやれる唯一のことだと、ジノはそう思った。
俺は世界が嫌いだった
何一つ望むものが手に入らなかった
望もうとした俺が悪いんだってそんなことは分かってた
血に塗れて罪しか抱えられないような人間だ
望んだりしちゃいけなかったんだ
きっと世界に嫌われてるんだろうな
もしもスザクが世界に嫌われてたんだとしても
俺はスザクが好きだよ
お前と出会えて俺は幸せだった
嘘偽りなんて一つもなかった。
あまり残されていない時間が零れていくのは分かっていたけれど、伝わるように、伝わるように、言葉の一つ一つに想いを込めて口にする。
ありがとう嬉しいよ
でもね、ジノ
僕は君に心を許せたことなんてなかったんだ
だって
だってきみは
もう二度と自らの意思で動くことのないその身体を一度強く抱きしめ、今になって垣間見えたかもしれないスザクの真実の想いと、間違いだらけだった自らの行動、そしてこれから先永遠に伝わることのない届かなかった想いに、所詮自分のためにしか泣けない己を自嘲しながらスザクには決して見せなかった涙でジノは頬を濡らし続けた。
2008.09.05
ギアスターボ(いくつだったか忘れた^^;)にて無料配布
書いてた時何考えてたんだろう…(ばくしょ)
無配Ver.にはこっそりスザクの最後のセリフが書いてありました。