日常だというのだから
年を取ったからか、あるいはそれこそわたし自身の「個性」だからか。
気付かなければいいところにまで気を回してしまうのは。
ああだったらどうだろう、こうだったらどうだろう、まさかそうなのだろうか。
数多の可能性に考えを巡らせているうちにいつしかそれらは菊の中で真実になっていく。
しかも大抵は本当に「真実」であるから笑うしかない。
現に今もこうして―――――――
「…何考えてるんだい」
「どうかしましたか?」
「菊が俺のこと見てない」
「…この状況で貴方のこと以外の何を考えられるっていうんですか」
普段は他人が何を考えているのかなんて気にもしないくせに、たまに変なところで聡い。
自身に覆い被さる年下の若者を見上げながら菊は苦笑する。
あながち間違いではないのだが、事の最中にやや遠くへ思考を飛ばしていたのは確かだ。
そんな素振りなど見せず集中しているかのように振る舞うことなど自然に出来ていると思っていたし今までもそうそう指摘されなかったのだが、どうやら彼には通じなかったらしい。
誤魔化すように拗ねた口元へと唇をよせる。
僅かに驚いた様子を見せる彼に、ああ珍しいことをしているな、とどこかで思った。
唇を離し至近距離で視線を合わせると、一瞬目を伏せ
「…どうかな。菊は」
嘘つきだから。
そっと呟き首筋に顔を埋める。
舌を這わされ背筋を駆け巡る感覚を甘受しながら、菊は空いた両手の行き場をどうすべきか迷った。
そして思う。
その仕草、その言葉、それさえも―――――――――
この年だ、今更情事の後顔を合わすことを照れたりはしないが、どこか気まずさを感じてしまうのは菊の中の可能性がもう「真実」になってしまっているからなのかもしれない。
しかしそんなことは一切お構いなしにアルフレッドは菊を正面から抱き締め寝転がった。
雑談を交わし、と言ってもいつものようにアルフレッドが一方的にころころ話題を変えながらしゃべり続けているだけだが、お互い眠りへと近付いていく。
頭上で小さく欠伸が聞こえ、もう寝ましょうか、言えばあーだかうーだかよく分からない返事が耳に届いた。
「ねえ、アルフレッドさん」
「んー」
「アルフレッドさんは…」
「なんだい?」
「…いえ、何でもありません」
おやすみなさい、告げて無理矢理会話を終わらせる。
目を閉じてそれ以上を語らずにいれば、諦めたらしいアルフレッドが少しだけ腕に力を込めた。
次第に呼吸が睡眠時のものへと代わっていく。
そうなって始めて、行き場なく伸ばされていただけの片腕をそっと動かし、触れるか触れないかの辺りまで指を運ぶ。
が、暫く迷った後、結局はそのまま元の位置まで腕を戻した。
(アルフレッドさん)
決して声には出さずに呼び掛ける。
(貴方は)
菊の中では既にそれは「真実」だ。
当人に確かめなければそうは呼べないかもしれないが、聞くまでもない、と結論付けている。
もしかしたら肯定されるのが怖いのだろうか。
浮かんだ考えに馬鹿馬鹿しいと笑い目を閉じた。
どうせ眠れやしないが、疲れた身体を休めるにはこうしていた方がいいだろう。
柔らかな月明かりを雲が覆い、部屋は暗闇へと包まれていく。
同じように菊の「確信」も心の中に包まれ仕舞われていった。
(アルフレッドさん
貴方はアーサーさんと寝たことがありますよね
それも一度ではなく
好きなんですよね今でも
触れ方も仕草も
同じ時間を近く過ごした証かそっくりですから)
(アルフレッドさん
貴方は
それなのに)
どうしてわたしに触れるのですか
放っておいてほしいのに
(イツカハイッテシマウクセニ)
2009.03.04
初書きー。 何やってるんだろう、わたし…。