One of their Possibility
ラタトスク発売前に書かれたロイドくんとエミルの対峙場面です。
しかも既に何人か死亡済みです。
妄想を理解したうえで、スクロールしてください。
時間の流れがとてもゆっくりになって、ロイドを含め周囲の動きの一つ一つがスローモーションで流れていくかのように感じた。そして、胸の辺りに焼けるような熱さがじわりと訪れる。
淡い金色の髪を持つ少年が視界の片隅に入った。手にしている剣の輝きは失せ、代わりに紅い何かがべっとりと付着している。ふと頭をよぎった赤色はキレイだと感じるけれど、それが自分の一部だったものだと思うと、途端に汚いものにしか見えなくなった。
痛みはいつまでも訪れず、そこはただひたすら熱だけを発していた。
そうか――――――俺は―――――――
彼の名前は何だっただろう、どうしても思い出せない。
("あれ"から、あらゆることを記憶に留めないようにしてきたからだろうか)
(だって取るに足らないくだらない出来事を記憶するために思い出がかすんでしまうなんてそんなの)
(ああでも彼の名前くらいは覚えておきたかった)
(もう遅いけど)
自らの意思で貫いたはずなのに、その顔には痛みと悲しみがごちゃ混ぜになったような、とても辛そうな色だけが浮かんでいる。不思議だった。だって血を流している自分は痛みなど感じていないのに、相対する彼はまるで自らが傷を負ったかの様なのだ。
俺は痛覚なんて(心身どちらも)とうに遠くへ置いてきてしまっている。預けたんだ、終わるまで、いらないものだから。
…ちがう、預けたりなんてしていない、押し付けてきたんだ、預けようとしても受け取ってくれるわけなんてない。
ふらりとこちらに足を向けようとするのを重い腕を持ち上げて手で制する。目はかすむし、喉はあつくて声を出すのも難しかったが、それでもなんとか力を振り絞った。
「ここはもう崩れる。脱出しろ」
「…あ…でも…」
「いいんだ、これで」
お前みたいなやつがいるなら安心だな。
世界を頼む。
目の前はちかちかして思うように捉えることが出来ないが、それでもしっかりと目を見据え、伝えたいことだけ一方的に伝える。
聞いた彼が驚き足をもつれさせながらも駆け出した時、まるでこちらの意志を汲み取ったかのように地面の崩壊が始まった。ロイド!と悲痛そうに叫び呼ぶ声が響き渡る中、暗闇へと落ちていく。抵抗する気など微塵もない。
おそらく最後になるであろう耳に届く人の声が彼のものでよかったと、心からそう思い目を閉じた。
おちてゆく。
どこまでもどこまでも。
さっきまでは身体中が燃えるように熱かったのに、次第に熱は失われ、中心から先の方へと冷たさが流れていく。
いつでも優しく微笑んでいた、いつでも強さを失くさなかった、愛しくてたまらない彼女にもこんな寒さを感じさせてしまったのだろうか。
俺が殺してきたたくさんの人たちも、同じだったのだろうか。
…アイツも、同じだったのだろうか。
今でもこの手に残っている。たくさんたくさん殺してきた、その人たちの最期は覚えてもいないのに、アイツを、刺した、アイツの、命を奪った、その時の感触だけは、今でも、この手に。
二人のいる場所に行けるだなんて思っていない。
数多の人たちへの謝罪の言葉も持っていない。
何がしたかったのだろう。それでも決して後悔だけはしてはいけないと何もかもを背負うつもりで走ってきた。立ち止まるのが怖かった。だって潰されそうな時に差し伸べて欲しい手を持つ人たちはもうどこにもいないのだから。
結局己の中に渦巻いていたのは「怒り」だったのだと思う。自らに向けられ、自らにぶつけるべきそれを、世界に向け、世界にぶつけた。最低な人間だ。救った世界を、また傷付けた。
分かっていたんだ、分かっていた、だけど、それでも。
真っ直ぐな瞳を思い浮かべる。
世界を頼む、だなんて偉そうなことを言ってしまった。こんな自分が。
けれど、彼のような人間がいるのなら大丈夫だろう。
世界は癒され、あたたかさが満ちていくに違いない。
そんな世界で生きてほしかった二人を脳裏に描き、静かにこぼれた一粒の雫と共にロイドは地獄へと羽ばたいた。
2008.05.31
061の日記念にクロログさまに寄稿
ロイドくんが黒く堕ちるには何もかも失ってないとダメなんじゃないかなーって思ってたらこんなの出来ちゃったとかいう。
クラトスルートその後のロイドくんを書いたのって初めてかもしれない。楽しいなあ!(自重しなさい)