ALC ビル 修復

73

※あくまで放送前の妄想です











「まだ並ばなきゃなんないわけ?つーかーれーたー」
「文句言うなら乗らなきゃいいだろ」
「枢木はばっかだなー。インディに乗らないなんて有り得ない」
「だったら黙って並べ」
「くるるぎが冷たい…」



「くるるぎっ!俺これやりたい!このポーズ!」
「いいから大人しく…」
「すげーすげー!」
「シートベルトを…」
「俺こっちの右側やるから、枢木は左側な」


せーの!と最後までは言わせなかった。うざい同僚のうざい三つ編みを思い切り引っ張る。痛いと斜め上辺りから喚くのを無視して(無駄に身長が高いのもウザい)、わざわざシートベルトを装着してやる。
振り返ると先程からどうすればいいのかおろおろしていた案内役のスタッフが引きつった顔でこちらを見ていた。三つ編みのせいで俺まで同じような目で見られているのが腹立たしい。

「失礼しました」
「い、いえ…行ってらっしゃい…」

まだぎゃんぎゃん言っていたが、アトラクションが動き出したら今度は興奮してわーわー叫んでいる。



「くるるぎ!もうすぐ写真っ」

だから何だと思うのだが、返事もしていないのに、どうしよっかなーと話しかけてくる。いや、応えてないんだからこれは独り言か。アトラクションで独り言を言うようなやつの隣なんて乗りたくないのに。溜め息しか出てこない。勝手にしろ。

「くるるぎー!くるぞー!せーのっ」

何がせーのなんだと横を見ようとした瞬間、右手を繋がれる。いわゆる恋人繋ぎというやつで。

「おーるはいるぶりたーにあー!」

叫びとともに繋がれたままの手を高く上げられる。もう溜め息も出てこない。



写真が次々に画面へと表示されている。呆れた顔の自分と満面の笑みを浮かべた金髪が最前列で手を繋いでバンザイしている写真もだ。このままデータは流れていくはずが、ふざけたことにやつは写真販売の列に並んでいる。なんという金の無駄遣いなんだ。
このまま置いていこうかと思ったが、アナウンスで呼び出されて恥をかくのはご免なので壁際で待つことにする。なんでこんなところにいるんだろう。こんな夢の国、自分には似合わないのに。

「お待たせー」
「次はどうするんだ」
「水の上くるくるするの乗りたい」

くるくるくるるぎ〜♪歌う姿に殺意を覚えたのは仕方がないと思う。
そんなこちらの心中などお構い無しに、あ、そうだ、くるりと振り返って何かを差し出してきた。

「…何」
「写真、さっきの」
「いらな」
「もう二枚買っちゃったんだからさーあげるよ」

無理矢理渡されうっかり手に持つと、嬉しそうな、どこから見ても頭の弱そうな顔になった。
頭にぽんと手を置かれる。

「思い出、な」


次の瞬間には、くるくるくるるぎ〜くるくるくるるぎ〜と歌い出している。今すぐその声を出せなくしてやりたいと思いつつ、横に並んで次のアトラクションへと歩き出した。








今あの写真はどこにあるのだろう。

結局捨てずにおいたのだから、部屋のどこかにあるだろうか。


一度も開くことはなかったけれど、今少しだけあの頃に戻りたいと、そんなことを考えた。









2008.03.06