ゼロロイ
「ロイドくんーさーむーいーっ!」
ちょっとの勇気で「いつものように」後ろから抱きつく。
実は毎回手だって足だってみっともなく震えそうになるのだけれど、なんとかこらえてごく自然に見えるように意味のない努力を続けていた。
まったく意味のない努力だ。自分でも何をやっているんだと呆れたくなる。
ただ、それでも。
勇気は夢を叶える魔法、だっただろうか。
顔に似合わずロマンチストだと初めて聞いたときは笑いが込み上げてものだが、実際最初に口にしたのは別人のようで、更に言えばなかなか的を得ていると最近は特にそう思う。
今回は拒絶されるかもしれない
振り払われるかも
あと3秒
1秒だけ許して
内心おかしくてしょうがない。
勇気は夢を叶える魔法、ははっ、俺さまの場合勇気は夢を「見せて」くれる魔法だ。
なにもかもを許されているかのような「夢」を。
温もりを優しさを手に入れたかのような「夢」を。
重い…といういつもの反応に心底ほっとして、気付かれる前に腕を解く。
ほんのり残る温かさが消えて無くなってしまう前に眠りについてしまおうと思った。
ゼロスのなけなしの勇気は、寒さが連れてくる悪夢にさえ「夢を見せて」くれるに違いない。
2008.12.12