そんな愛などノーセンキュー!
戦闘になったが、いくらこちらがかなりの常人離れしたパワーアップをしていたとしても、所詮は一人対六人だ。更にゼロスは手を抜いてはいないが、本気で勝とうというつもりはない。結果などみえていた。
ほとんど体力を削られ、全身傷だらけのぼろぼろだ。バックステップを使い距離を取る。
するとロイドが単身でゼロスに向かって突進してきた。素早くエアスラストを唱え、完全に近付かれる前に目の前ぎりぎりで術が発動する。7つの風の刃が全てヒットし、接近を防げたはずだった。
しかし、術が発動した地点から見えたロイドは、左腕で顔を庇いながら、右肘を曲げてやや身体の右側を後方へと逸らし突きの構えをみせていた。
見覚えのある構えだ。なにせ、それはゼロスも使える技なのだから。
右に持つ剣がきらりと光りをみせる。
(もうすぐ)
踏み込もうと左足に重心がかかった。
(もうすぐ、もうすぐ)
突き出そうと右足が地面を蹴った。
(もうす)
「瞬迅…剣っっっ!」
ガードもしなかった。相手を吹き飛ばす技だが、それだけはかろうじて踏ん張り堪える。
けれどもう闘えるだけの力は、ゼロスに残されていなかった。まともに腹に突きを喰らい、衝撃で口から血を吐き出す。剣を握っているのもままならなくなり、右手から滑り落ちた剣が床に当たり音をたてた。
「カッコわり…な…」
空いた右手で口元を拭いながら、少し笑う。黒いグローブでは分かりづらいが、鮮血でべたべたになっているはずだ。
「仲間だと…信じてたのに…っ」
戦闘、終了だ。
後ろ向きにゆっくり倒れる。皆がこちらに駆け寄ってくる気配を感じた。
「派手に…やって…くれちゃったなぁ…」
「…ゼロス…」
赤い腕がそっと身体を起こしてくれる。ロイドの声が耳元で聞こえた。すごく、苦しそうな声だった。
「コレットちゃんな…地下の大いなる実りの間だ」
自分はちゃんとしゃべれているだろうか。段々意識が遠くなっていく。
「ちゃんと…助けてやれよ」
「い、いまさらそんなこと言うなら何で俺たちと戦うんだ!」
五感全てにヴェールがかかったかのようだ。痛みすらも遠のいていく。耳も遠くなってきた。ロイドはなんと言ったのだろう。
「ちゃんと…助けて…やれよ…ロイド…おまえ…が…」
「分かった、コレットは俺が必ず助ける!だから、もうしゃべるなっ」
ああもうロイドの顔がぼやけてしまう。決して笑顔などではないだろうが、もう一度笑った顔が見たかったなぁ。必死に思い出そうとするが、掴もうとする前に遠のいてしまう。
意識が遠のいていく。
ダメだ。
まだ、ダメだ。
ロイドに、
あの言葉を。
何一つ大事になんて出来なかった。
最後の瞬間に考えていることだって、本当は何よりも大切にしなければいけない、愛しい愛しいたった一人の肉親のことではないのだ。
本当に最低な俺。
いつもいつも自分のことばかりで、たった一人、と思った人すらも傷つけてばかりで。
そして、たった今これからも傷つけて。
反省ばかりの人生だった。
それでも後悔はしていない。
そんな惨めなことはしない。
それに、
最後の最後に欲してやまぬものを
ようやく。
「ロイド…コレットちゃんは助けてやるんだな…?」
「ああ!約束だ!」
「そう…か…」
「ゼロス…」
「なぁ…ろいど…」
か細い声をなんとか聞き取ろうと、ロイドが顔を近づけてくれた。
重くて重くてしょうがない右腕を、これが最後と力を振り絞ってもちあげていく。
「これっとちゃんはたすけるのに」
右手でそっとロイドの頬に触れる。
「なんで」
あかいあかい血がべっとり付いている、この右手で。
「なんでおれはたすけてくれなかったんだ」
ロイドが息を呑む。
掴んだか?
まだかもしれない。
最後にもう一つだけ。
これが、これで。
「俺はお前のこと愛してたのにな、ロイド」
(これで、だいじょうぶ)
満足しきり、ゼロスは目を閉じて世界に別れを告げた。
2007.08.26(発行)
2009.06.11