Telling a lie is a sin.
何が変わったんだろう
世界?
環境?
それとも、やっぱり僕自身だろうか
いつまでも変わらないのは、きっと君の優しさだけ
昔は気軽に言えた事がある。
僕は笑いが絶えなくて、君の(今も昔も大好きな)笑顔も絶えなくて。
あの時は本気で言っていた。
いつか、いつか。
今からじゃとても考えられないんだけれど。
そして、きっと君も本気で答えてくれていたんじゃないかな。
君は優しいから…どこまでも優しいから。
僕が本気を込めればそれを真剣にとらえてしまうと思うんだ。
(君が僕の真意に気付くかどうかは別として)
だから、もう、どうしても言えない。
言うことが出来ない。
どうして昔の僕はあんなことを口にしてしまえていたんだろう。
今と昔じゃ重みが違うからか、それともやっぱり僕自身が変わってしまったからか。
自分でも分かってる、きっと僕は臆病になった。
原因はいくつか考えられるし。
(もちろん、それを責めるつもりは毛頭ない)
多分アスランも変わったところはある。
(僕の気持ちを読めなくなったところとか)
(でもそれは僕が読ませないようにしているだけだから、これは君が変わったところではないか)
(って、どこまで自己中なんだ僕は)
けれど、君の優しさだけはどこまでいっても変わらなかった。
これからも変わらず在り続けるもの。
僕を守ろうとするもの。
僕を苦しめるもの。
僕を包むもの。
僕を、君から遠ざけるもの。
ねぇ…
アスラン…
「どっかさ、二人で。遠くまで行かない?」
飛び切りの笑顔を貼り付けての言葉にアスランは困ったような顔になる。
「いきなり何言い出すんだ、お前は…」
「いいと思わない?」
アスランが(お決まりの)溜息をつく。
ここは腕の見せ所だろう。
浮かべる表情なんて自由自在にあやつれる。
少し俯き気味にして、悲しそうな顔をして口を開いた。
「どこか遠い遠いところで、誰も僕らを知らないところでさ。君と二人で暮らせたらなって。そしたら」
「キラ…」
アスランの声が硬くなる。
今顔をあげると先程の表情とはかけ離れたものになっているんだろう。
そうっと目線をずらすと、それは予想通りのもので。
そこからは君の優しさが滲み出ていて。
どこまでも本当に思い浮かべていたままのものだった。
笑いがこみ上げるのを堪える。
きっと今のアスランの頭の中は僕で埋め尽くされている。
まったく分かりやすいんだから。
覗かなくても分かってしまう。
このまま僕がこうして君の前で俯いて、君の言葉を待っていれば君は僕が望む言葉をかけてくれるのかもしれない。
でも、決して僕が欲しいのはそんなことじゃないと思うんだ。
もう自分でも自分がよく分からなくなってしまっているけれど、何となくそれは違うと思う。
それに、それを君の口から音として聞きたくはなかった。
だって今日は。
今日は。
僕は、今日だからこそ。
沈黙が痛くなりかけたころ、キラは少しずつ肩を震わせた。
もしかして泣いてるとでも思ったのか、アスランの焦ったような気配を感じる。
この辺までにしておこう。
もう十分だ。
「ア…アスラン…っ」
「ど、どうした!」
慌てて声をかけてくる姿に、声をあげて思い切り笑う。
アスランは何がなんだか分からないような顔をしていて、それも期待していたものだったから、ますます笑いが深くなった。
机を叩いて、ひぃひぃ言いながら笑ってる僕に、いよいよハツカネズミが回り始めそうになっていて。
そろそろ説明をしてあげないとと思うのに、笑いが止まらなくて困る。
目には涙も浮かんできてしまった。
(大丈夫僕は笑えている)
(この涙はアスランがおかしいから)
何とか収めて、一呼吸。
お茶をくいっと飲んでからアスランに向き合った。
「一体何だって言うんだよ…」
「だって、アスランがあまりにも僕が考えてた通りの行動するから」
「はぁ?」
「今日が何の日だか覚えてないの?」
「今日…」
今日はね、アスラン。
「四月一日、エイプリルフールだよ」
しばらく考え込んだ様子で、その後おそるおそる口を開く。
「じゃあ、さっきのも…」
「もちろん、僕のかわいい冗談じゃない」
語尾に☆マークをつける勢いで言うと、アスランはがくりとソファーに身を沈めた。
どこまでも予想通り。
立ち直ったら怒り出すんだろう。
内心笑っていると、こちらに視線を向けてきた。
くるぞ!とわくわくしていたのに、君の言葉は別のもので。
「お前、本当に遠くに行きたかったんじゃないのか」
え、と思った。
昔そんな話したことがあっただろ、と君が続けて、僕の心臓がぎゅってなる。
そうだった。
君はあんなことでもちゃんと覚えていてくれる人だった。
どうして。
どうして、君は。
「実はそうなんだ…って言ってあげたいところなんだけど、本当にそんなんじゃないんだよ」
「本当にか」
「ホントだって。もうやりにくいなー、僕のエイプリルフール計画が台無しだよ」
「計画ってお前な…」
昔から変わらない、呆れ顔になる。
僕はこの顔も好きだった。(もちろん今だって)
いつもは鈍いのに、たまに鋭くなって、僕はそれに一喜一憂している。
あぁ本当に馬鹿だ。
なんか悩んでるんだったら言えよ、いつだっていいんだから。
そう残してアスランは部屋を出て行った。
僕は笑えていたかな。
一人残されてソファーの上で膝を抱える。
外はもう真っ暗で、今年の四月一日も終わっていく。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
どうして。
どうして、君は。
僕はあの言葉が言えればそれだけでよかった。
別にそれに対する答えなんて何にも望んでない。
ただ、嘘をついても許されるこの日に、嘘の中に少しの本音を混ぜて君に言ってみたかっただけなのに。
抱えた膝に顔を埋める。
いつもあやつっている表情が外界から閉ざされる。
滲んだ涙は誰にもキラ自身にも気付かれることなく、一瞬のうちにズボンに染み込まれていった。
2007.04.10
今更ながらのエイプリルフールネタ。タイトルは中学の時に英語で習った例文(笑)「嘘をつくことは罪です」