ALC ビル 修復

ゼロス・ワイルダの激情〜いつか、きっと、もっと、ちゃんと〜

レアバードがあれば移動に困ることはまずない。よって野営をする機会はほとんどない。
しかし、それはあくまで外での移動時の話である。一度ダンジョンに潜ってしまえば、移動に頼るものは各々の足のみだ。しかもモンスターとの戦闘も否応なしに行わなければならず、よって一日で攻略しきることができるものなど皆無だった。
となれば、暗い神殿の中やら、じめじめとした洞窟の中やらで一夜を明かすことになるのは当然のこと。
一行はそんなこんなでどうにかダンジョンの攻略を終え、数日ぶりに町での宿泊、ふかふかのベッドでの休息をとることになった。プラスで、長いこと篭っていて金銭的に余裕ができているのだから、一人一部屋じっくりゆったり身体を休めよう、そのプランに反対する者は誰一人いなかった。
皆疲れているのだし、買出しなどは明日行えばいいだろう、というリフィルの言葉に全員が頷く。久しぶりの多彩なメニューにそれぞれが好きなものをオーダーし、あの仕掛けは難しかった、あの宝箱の中身は使える、などと雑談を繰り広げ、充実した時を過ごした。



夕食を終え、じゃあ解散また明日、となる。見張りも緊張感もなくていい。解放感とともに今夜はよく眠れるだろう、ロイドはそう思っていた。
あとは寝るだけ、とうつらうつらしながら、ああ電気を消さないと、そう思っていたところにゼロスが尋ねてくる、その時までは。










頭上で両腕を拘束され、信じられないところに信じられないものを挿入され。ものすごく苦しいし、ものすごく痛い。
自分は間違いなく被害者だ、そう思う。それなのに。

「なんで…おまえが…そんなくるしそうなかお、してんだよ…」

絶え絶えになりながらも、なんとか声をしぼりだす。届くかどうかなど分からなかったが、ぴたりとゼロスの動きが止まったので、多分届いたのだろう。
涙で滲んだ視界でもはっきり分かるほど、ゼロスの表情はひどかった。まるで、一人ぼっちの迷子のような、今にも泣き出してしまいそうなのを必死でこらえているような、そんな感じがする。
ふと両腕を拘束していた左手の力が弱まった。ずっと同じ体制だった腕を動かすのは辛かったが、ゆっくりと腕を伸ばす。右手で、ゼロスの左手にそっと触れると、驚いたように手を引っ込めようとしたので、上手く力を込めることが出来ないけれど、その手に自分の指を絡めた。
そんな苦しそうな顔、見てるこっちが苦しい。想いを込めて。
耳には自分の荒い息づかいだけが聞こえてくる。こんな夜中に起きているのはゼロスとロイドだけなのではないだろうか。世界に二人しかいないような、そんな気さえしてきてしまう。おかしな思考だ。頭の中がぐちゃぐちゃで、俯いてしまったゼロスからはこれまで以上に何も、繋いだ手からも何も伝わってこない。
繋いだ右手にぐっと力を込め、左手で紅い髪に触れる。真っ暗な闇の中でも鮮やかな、それ。

「…ぜろす?」

掠れた声で名を呼ぶ。繋いだ手の力は込めたまま。
どのくらいそのままだったのか、永遠に続くかと思われたが、時間にしたらい瞬のことだったのかもしれない。触れ合っている指、掌、そこから震えが伝わってきた。そして耳に届く、小さな、小さな。

「ゼロス?…泣いて」

るのか、そう続けようとしたが、それは音にならなかった。
腕を引かれ、強い力で抱きしめられる。急に動いたため繋がっている下半身にひどい痛みを感じて声をあげそうになるが、唇をかみ締め耐えた。
ここで自分が痛みによる声をあげてはいけないと、聞かせてはいけないと。
苦しいのはロイドのはずなのに、それをしてしまったらゼロスはもっと苦しくなる、根拠のない考えだがまと外れではないと思う。
互いに中途半端に着ている服が擦れ合う。服の上からでも分かるほど、ゼロスの身体はひんやりと冷たかった。
少しでもぬくもりが、体温が伝わればいいと、ロイドもその身体を抱き返す。すると、より一層強い力で抱かれ、震えが大きくなった。
顔が肩に埋められているため表情を窺うことは適わないが、服が濡れているのを感じる。そっと柔らかな髪をなでると、堪え切れなかったのであろう声が漏れて耳に届いた。
そして、

「ごめん…ろいどくん…ごめん…」

まるでその二つの言葉しか知らないかのように、ゼロスはひたすらそれらを繰り返す。何度も何度も。それを聞きながら、ロイドも繰り返しゼロスの頭を撫でた。できる限りの優しさで、そっと。何度も何度も。










翌日、朝食を取るため皆が集合した食堂で、ゼロスとロイドに変わったところは見られなかった。二人の眼が赤いことと、ロイドが少しばかり動きづらそうなところを除いては。それまでの普段の様子と全く同じであった。
目に見えての変化も、二人の間であの夜のことが語られることも、今後決してないだろう。意味など何もなかったのだ。


それでも、もしかしたら、何かが。

今は何もなくとも、これから、何かが。

それとも、もうすでに?

僅かでも。





(そして、いつか訪れる、世界、
 
 生まれる、絆、

 二人の、二人だけの

 ずっと、ずっと、いつまでも)









2007.10.21(発行)
2010.05.04

当時何を考えてたか思い出せないけど、おそらくクラトスルート。