そんな愛などノーセンキュー!
やっとこの時がきた。
どれほど待ち望んだだろうか。
これで、ようやく。
そんな顔するなよ、ハニー。
俺様が裏切ったの、そんなに辛いか?悲しいか?
「やるからには、本気でいこうや」
この命一つまるまるかけて、全てに終わりを。
(どうか望んで止まぬものを)
「結局…こうなっちまったなぁ」
「…どうしてだ!仲間だったじゃないか!」
「仲間…ねぇ 最後の最後に信じてもらえなかったけどな」
「それは…」
さすが俺様だな。思ってもないこともすらすらと口から出てくる。
結局こうなっちまった、だと?こうなることこそ望んでいたくせに。
最後の最後に信じてもらえなかった?そうなるように仕向けていたのは誰だ。
俯いてしまったためにロイドの表情を伺うことは出来ないが、どんな顔をしているのかは想像どおりに違いない。謝る資格なんてあるはずがないと分かっているが、それでも謝りたいと思ったのは嘘ではなかった。
(だって、そんな顔をさせてしまった)
嘘ではないけれど。
(今、そんな顔をさせてしまったのは、自分でしかない事実に、俺は)
「いいってことよ。まあ、実際俺はおまえたちをだましてたわけだし」
「何かほかに訳があるんじゃないのか!?これも、また冗談なんだろ」
ゆっくり、一歩一歩近づいていく。こんな時でもロイドは眩しい。何もかもを惹きつける力を持っているのだろう。ゼロスは常々少しの怖さを感じていた。強い、強すぎる。ちっぽけなゼロスの心など、容易く壊し再構築してしまう、その強さ。
「…まいったね。俺はただの半端ものなのよ」
目を閉じて一点に力を集中させる。静かに力が集まり、脈打っていく。己の全てが流れ込んで行く。塔の内部に渦巻くマナの流れをふいに感じた。ぐるぐる絶え間なく流れ続ける。自らの内にも流れ続けているもの、その流れがいっそう強く早くなっていくのを感じた。今にも爆発してしまいそうだ。
一方で色々なものがガラスを一枚挟んだかのように遠くなってしまったような、そんな妙な感覚がする。
(だからと言ってどうこう思うでもないけれど)
「楽しく暮らせりゃ、それでいい。ただ…それだけだ!」
そっと目を開けた。見えた世界は、当たり前だがやはり同じだった。当たり前ののいつもの世界で、ただ立つ場所が、向きが違ってはいたけれど。
手を胸元へ当てようとしてふと気付く。ゼロスの手は僅かに震えていた。これから起こることに、起こすことに対して緊張でもしてるというのか。それとも恐れているのか。どちらにしろ、今更だというのに。
全てを断ち切るように右腕を振りぬく。
(誰かの、特にロイドの目に入ってしまうのだけは絶対に嫌だった)
背から全身のマナの流れが放出したかのようだ。いや、実際にしたのだ。今ゼロスの背中にはマナの翼があるはず。もうこの翼はゼロスの一部となった。
ゆっくり剣を抜く。これまで幾度となく剣を抜いてきたが、その中でも一番といっていいほど、ゆっくりとその動作を行う。
これで、最後と。
周りへ目をやると、ゼロスが剣を抜いたことにより皆戦闘態勢に入ったようで、各々の武器を構えはじめている。
そして、
ああ、
ロイドが、
剣を。
「やるからには、本気でいこうや」
「…ばかやろう…っ」
ロイドの剣が、
想いが、
全てが、
俺に、
俺だけに。
「俺さま、ホントにばかやろうなんでな」
剣を振り、そしてロイドに向ける。僅かにロイドは目を見張り、そして諦めたかのように再び小さく俯いた。この期に及んで、彼はまだ信じていたのだろうか、己のことを。何もかも、今更だというのに。
「いくぞー」
引き返せたかもしれない、そんなラインなどもうとっくに超えてしまっていたのだから。
2007.08.26(発行)
2009.06.06