こんな世界を君とふたりで
「明日学校休む」
夜の10時を過ぎた辺りだろうか、メール着信を告げるメロディがゼロスの部屋に鳴り響いた。
読んでいた雑誌を横にやって手探りで携帯を探す。かちりと画面を開いてフォルダを開くと、そのメールはロイドからのものだった。内容は簡潔に一言。
(学校を休む?あのロイドが?)
正直驚いた。馬鹿のつくほど健康で体調を崩している様子など見たことないような気がする。もちろん今まで皆勤賞、拍手喝采だ。
こちらも一言「どした?」と返すと、少し間をおいてから再び着信音が響く。しかし今度はメール着信ではなく、電話の着信だった。
「もしもーし」
「ゼロス?俺」
「おー。それよりメール見たんだけど」
「うん、そのことで電話した。って言っても大したことじゃないんだけど」
声を聞く限り本当に大したことではなさそうで、安心する。知らず緊張していた自分に気がついて笑えてしまう。
たかだか学校を休むくらいで自分は何を緊張しているんだか。
「明日親父の納品の期限なんだけど、親父ちょっと足痛めたみたいでさ。だから俺が代わりに納品しに行くことになったんだ」
「へー親父さん平気なの?」
「少し休めばすぐ良くなるって言ってたから大丈夫だと思う。だからさ、俺明日風邪っぴきってことで!」
「堂々と言うなよ…」
「いつもゼロスが言ってることだろー」
ロイドの言うことは間違ってはいない。確かにゼロスはよく学校をさぼる口実として「明日風邪っぴきだから」と言っている。
しかし、だからと言って。
「ロイドくんには言って欲しくなかったっていうか…」
「ん?なんだ??」
「いーえーべっつにーこっちの話ですー」
「なんだよ、気になるだろ」
「まあまあ。あーじゃあ明日はロイドくんに会えないわけだ」
ただ単にごまかすための話題のはずだったし、普通に言ったつもりだったのだが、それに対して耳元から笑いを含ませた声が聞こえてくる。
寂しいのか?なんて言ってくるから、つい大声で返してしまった。すぐにはっと気付く。こんなのは自分らしくない。
向こうもそう思ったようで、戸惑いを滲ませながら名前を呼ばれる。
「えっと、明日だけだって」
「分かってるよ、そんなの」
「明後日は学校行くから」
「当ったり前」
「授業、ノート取っといてくれな」
「りょーかーい」
そのままいつものような雑談を交わして、電話を切る。
代わり映えのしない待ち受け画面を見つめてぱたんと閉じた。もう何の音も発しないそれをぽいと放る。
放ってから、あー充電しとかないと、そう思いもしたが、めんどくさくて身体が動かない。
ベッドに寝転がると読みかけの雑誌に手が触れた。何をしていたか思い出したが、続きを読む気なんてとうに失せている。
仰向けに倒れているため、天井の蛍光灯が眩しい。新しくしたばかりだから尚更だ。
(新しいのに代えたのっていつだったっけ)
ぼんやり見つめていると目がちかちかしてうっすら涙の膜が出来た。目を閉じても瞼の裏が明るくて腕で目の辺りを覆う。
そうか、明日は
「ロイドくんに、会えないんだ」
ぽつりと呟いた言葉が自分しかいない部屋に細く響いた。
何がそんなにこの胸を締め付けるのか、全く理解できない。ロイドも言っていたとおり、自分から学校をさぼることだってよくあるのに。
(あー俺も明日さぼろっかなー)
(だめだノート取っとかないと)
頭が本当にぼーっとする。今日はもう寝てしまおうと思った。電気が付けっぱなしだったが、消すために動くことが億劫でそのままにしておくことにする。電気代?今夜くらいは勘弁してくれ。
眩しくないように枕に顔を埋めてうつぶせで眠る。
早く朝になればいい。
(夢見が悪そうだなあ…)
そんな予感を感じながら、ゼロスは目を閉じて無理やり睡魔に身を委ねた。
2008.01.27(発行)
2009.08.21